終活の一環として、遺言書の作成は重要なステップです。遺言書と聞くと、「お金持ちの人が書くもの」と思っている人も多いのではないでしょうか?
遺言書は、自分の財産や希望を明確にし、残された家族の負担を軽減するため、想いを伝えるためのツールです。しかし、作成にはいくつかの注意点があります。
本記事では、終活の意義とともに、遺言書作成時のポイントについて詳しく解説します。安心して準備を進めるために、ぜひご一読ください。
1. 終活ってなに?何のためにするの?
1-1. 終活とは
「終活」と聞くと「人生の終わりに向けての活動」など暗いイメージを抱かれる方が多いかと思います。
終活は終わりのことだけではなく、これまでの自分を振り返ったり、現在の財産状況の把握することで、漠然とした不安が解消され明るく楽しい生活を送ることができます。
1-2. 家族の負担軽減に
何も終活をしないで自身に万が一のことが起こった場合、家族の負担はとても大きいです。例えば、急な事故や病気で回復が見込めない状況になったときに、延命措置の判断をするのは家族になります。日頃から終末期の希望を伝えたり、エンディングノートに希望を記しておけば、家族の判断の助けになるでしょう。
またあなたが亡くなったとき、家族はあなたの持っている銀行口座などを把握しているでしょうか。近年は通帳レスやオンラインバンクの利用などが増え、手元にあるもので口座の有無が確認できないことが多々あります。残高が少なくても1つの口座を解約するための手続きは変わりません。
・使っていない口座は解約しておく―
・自分の口座をエンディングノートなどに書き記しておく―
これも立派な終活の一つです。
2. 遺言書の必要性
2-1. 遺言書を作成した方がいい人とは?
遺言書と聞くと、「お金持ちの人が書いておくもの」「財産争いが起きそうな人が書くもの」というイメージを持っている人が多いかと思います。
もちろんそういった人も必要ですが、次に当てはまる人も必要です。
・子どもがいない夫婦
・おひとりさま
・海外在住の相続人がいる
・認知症または認知症になる恐れのある相続人がいる
はじめに確認しておきたいのが、遺言書がない場合に財産を相続するのは「法定相続人(以下、相続人)」になります。では、この相続人とは誰のことをさすのでしょうか。
配偶者は常に相続人となります。
順位は以下の通りとなります。
①配偶者+子ども(すでに亡くなっていれば孫)
②配偶者+両親(すでに亡くなっていれば祖父母)
③配偶者+兄弟姉妹(すでに亡くなっていれば姪または甥)
配偶者がいない場合は、子ども、両親、兄弟姉妹の順になります。
2-2. 遺言書がない場合のリスク
どんなときに遺言書がないと困るのでしょうか?事例で見てみましょう。
①子供のいない夫婦のうち夫が亡くなったケース
夫の両親はすでに亡くなっており、夫に兄と妹がいた場合、相続人は妻と夫の兄・妹となります。つまり夫が遺言書がなかったとき、妻は夫の兄妹と財産の分け方を話し合わなければなりません。
また夫が亡くなった後に妻が亡くなった時、妻の相続人は妻の兄弟となります。妻の財産には夫から引き継いだものが含まれていますが、それは夫の親族には渡らず妻の相続人が分け合うことになってしまいます。
②おひとりさま(結婚歴がなく子どもがいない)が亡くなったケース
両親はすでに亡くなっていて一人っ子だった場合、相続人はいないということになります。そうなると、財産は最終的に国に帰属します。
この亡くなった方に伯父やいとこなど親戚がいたとしても相続人にはなりません。財産の中に親から引き継がれた家があり、伯父にとっての実家だったとしても、伯父は遺言書がない限り、家を引き継ぐことはできないのです。
③亡くなった人の母が認知症だったケース
相続人が認知症だった場合、判断能力がないため財産を分ける話し合いができません。そうなると財産を分けることができません。
認知症の相続人に成年後見人をつけなければ、いつまでも相続手続きが進まないという事態になってしまいます。
2-3. 遺言書がもたらす安心感
遺言書には財産の分け方が書かれているため、遺された相続人で話し合いをしたり、遺産分割協議書(どう分けるか書面に記したもの)への署名・押印の必要がありません。
先ほどの事例でいうと
①夫が遺言書を作成していたら
夫の兄妹と話し合うことなく、書かれた通りに財産を分けることができます。
また、妻も「私が亡くなった時に夫がいなかった場合」の遺言書を遺しておけば、夫の親族に遺すことも可能です。
後で説明しますが、このように遺言書には第二順位をつけることができます。
②おひとりさまが遺言書を作成していたら
遺言書に「家を伯父に遺贈させる」内容が書かれていたら、相続人ではない伯父が家を引き継ぐことができます。
このように遺言書では相続人以外に財産を渡すこともできます。
③亡くなった人が遺言書を作成していたら
遺言書があれば話し合いや遺産分割協議書へ署名しなくてもよいので、母が認知症でも問題なく相続手続きができます。
3. 遺言書の種類とその特徴
遺言書には大きく2つの種類があります。
手書きの遺言書である「自筆証書遺言」と公証人がつくる「公正証書遺言」です。
3-1. 自筆証書遺言の特徴と作成方法
遺言書と聞いて想像されるのは、自筆証書遺言かと思います。特徴は、全て手書きということ。ただし財産目録については預貯金は通帳のコピー、不動産は登記事項証明書のコピーで大丈夫です。紙とペンさえあれば費用をかけず、簡単に作成ができます。
注意点として、遺言書に遺言者の氏名、作成した年月日、押印がなければ無効な遺言書となってしまいます。通帳や登記事項証明書のコピーにも署名と押印が必須です。
ちなみに亡くなった人の自筆証書遺言を発見したときは、勝手に開封しないでください。自筆証書遺言に偽造などの不正を防ぐため、家庭裁判所による検認をしなければなりません。
そのためには、まず亡くなった人(遺言者)の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人の戸籍謄本をそろえ、家庭裁判所に検認の申立てをしなければなりません。その後、家庭裁判所で開封し検認を受けます。
このとき、裁判所では遺言書に不備がないかなどの確認はしません。もし遺言者の署名や押印がないなど不備があれば、検認を受けても無効な遺言書となり、遺言書がない場合の相続手続きとなってしまうので注意が必要です。
このように自筆証書遺言は簡単に作成できますが、いざ相続人が手続きする際には時間と手間がかかること、無効になる可能性があることを覚えておいてください。
3-2. 公正証書遺言の特徴とその利点
公正証書遺言とは公証役場で公証人が作成する遺言書のことです。公証人は元裁判官や検察官など法に詳しいため、次の項目で解説する遺留分などを考慮したアドバイスなどもしてもらえます。
公正証書遺言のメリットは原本は公証役場で保管するため紛失のリスクがないこと、そして公証人作成し、作成時に証人2人が立ち会うこと、公証役場で保管されることから、偽造などの不正の恐れがないため、家庭裁判所の検認をせずに相続手続きができます。
4. 遺言書作成時の注意点
4-1. リスクに備えた書き方を
先ほど少し触れましたが、遺言書があった場合、相続人には「遺留分」という相続財産を最低限受け取る権利があります。
これは民法で保障されており、遺言書に書かれた割合が遺留分を侵害していた場合、その相続人は遺留分侵害額請求を行うことで、侵害額を返還請求することができます。
そのため、特定の人に多く財産を相続させるような遺言書を書くときは、場合によって遺留分を考慮した割合を考えなければいけません。
その他、気を付けるべきとして2-1で上げた例①にあった「第2順位」の設定です。
第2順位とは、遺言書に書いた「自分の財産をあげたい人」が、自分よりも先に亡くなっていた場合に備えて、「自分の財産をあげたい人が亡くなっていた場合、~に相続させる」といった次の候補を書いておくことです。
4-2. 「遺言執行者」を設定する
遺言に書かれたことを実行する人を「遺言執行者」といいます。
遺言執行者は遺言の中で指定しておくことができ、これは家族や親せきに限らず知人や法人にすることができます(執行者になる人の同意は必要です)。
これは相続する人が
・仕事で忙しい
・遠方に住んでいて時間が取れない
といった理由で銀行手続きや不動産名義変更手続きに行けない方、もしくは
・自分が多く相続することになっているからやりにくい
・ほとんど交流のない相続人へ財産の振り込みなどやりとりするのが負担
などといった相続人の心理的負担が大きくなる可能性がある場合には、遺言執行者を指定しておくことをお勧めします。
指定されたものは公正証書遺言書があれば、執行者として遺言書に書かれた通りの手続きをすることができます。
5. 遺言書を作成したら
5-1. 遺言書の保管方法
自筆、公正証書問わず遺言書を作成したら、相続人など周りの人に作成したことを知らせてください。せっかくつくった遺言書の存在を誰も知らなかったら、遺言書がないまま手続きが進んでしまいます。
内容まで伝えなくとも、遺言書の存在だけでも伝えておいてください。
自筆証書遺言の場合は、改ざんを防ぐためにも財産目録と一緒に封筒に入れてしっかり封をして保管してください。
先ほど自筆証書遺言は家庭裁判所の検認が必要といいましたが、実は法務局で保管した場合は改ざんのリスクがないため検認が不要となります。手数料はかかりますが、保管が不安、検認を避けたい人は法務局での保管をおすすめします。
公正証書遺言の場合は、原本は公証役場で保管され、遺言者には謄本と正本が渡されます。謄本と正本は自分で保管していてもいいですし、内容が知られても問題がなければ相続人に渡しておくのもよいでしょう。
5-2. 定期的な見直しと更新の重要性
人の財産状況と気持ちは生きていれば変わるものです。
財産が減ったとき(例:遺言書に記載していた不動産を売却して手放した、銀行口座を解約したなど)は、わざわざ遺言書を書き直す必要はありません。
一方で、財産が増えたとき(例:自動車を買った、新たに株を買ったなど)は、遺言書を更新しなければなりません。
更新しなかった場合、遺言書に書かれていない財産について相続人全員でどう分け合うか話し合い、遺産分割協議書を作成する必要が生じてしまいます。また、気持ちの変化により、あげたい人が変わった場合も遺言書を直さなければいけません。
遺言書の作成には、遺留分や第二順位、財産の記載漏れなどさまざまなことを考慮しなければなりません。
終活・相続支援センター札幌では遺言書に関するセミナーや作成のお手伝いをしています。ご興味や気になることがある方は、ぜひお問い合わせください。